メリー待っててね

小学生のやっちゃんの家にはかわいい子やぎがおりました。

まい朝やっちゃんは、この子やぎのメリーを、町はずれにある川岸の草むらへつれて行きました。ここにはやぎの好きな草がいっぱいあり、おなかのへった子やぎは、よろこんですぐ草を食べはじめました。

学校へ行くため、しばらくのお別れです。

「メリー、待っててね。夕方、きっとむかえに来るからね」と、やっちゃんは言います。

「行ってらっしゃい。きっとむかえにきてね、待ってるから」と、メリーが、メー、メーと鳴いて言います。

学校から帰ったやっちゃんは、夕方になると、急いで、川岸のメリーのいる所まで行きました。

川岸の土手では子やぎが、むかえにくるのを待っていました。小高いていぼうの上にいるのが見えると、やっちゃんは走りだしました。遠くから、メリーがやっちゃんを見つけると、うれしそうにメーメーと、声をはり上げて鳴きました。くいにつながいだロープが、ぴんぴんにはるまで力いっぱい引いて、むかえました。

二人が草むらの上で出合うと、メリーがやっちゃんの身体に、頭をぐいぐいと押してきました。また、ぶじに会えたのでうれしくて、かたい頭をなんども、ごつんごつんとぶつけてきました。やっちゃんは力いっぱいメリーを押し返えしてやりました。こうしてお互いにふざけ合いました。

メリーは、つながれたロープが届くかぎりの草を、もうすっかり食べているので、まだ草のある場所へ移してやりました。夜中に、おなかがすかないように、草をいっぱい食べさせるのです。やっちゃんはそばの草むらにねころんで、大きな声で歌をうたいました。メリーは草を食べながら、ときどきそちらの方をながめて、うれしそうに口をモグモグさせながら、言いました。

 「やっちゃんは歌がじょうずね。あたし、やっちゃんが大好き」とごきげんでした。そのさまが、いかにも得意そうでした。

夕ぐれが近づいて、西の空いっぱいに広がった、赤や金色の夕やけが、だんだん黒っぽくなってくると、二人は家へ帰るのです。

首につないだロープを、メリーが力いっぱい引いて、急いで走って帰ります。

メリーは、かしこいメスの子やぎでした。

ある日のこと、やっちゃんが学校で、いのこりになったため、メリーをむかえに行くのが遅くなりました。もう辺りはまっ暗になり、家では、晩ごはんの用意ができていました。弟のもうちゃんと、妹のえっちゃんたちは、いっしょにごはんを食べるのを待っていました。

やっちゃんはメリーのことが心配でしたが、辺りはもうまっ暗でした。メリーをむかえに行く途中のため池は、お化けが出ると言う、うわさがありました。早くメリーをむかえに行かなければ、とあせりました。

子供たちが住むこの家は、メリーのいる川岸からは、だいぶ遠くにありました。

家のすぐうらにある県道を横切って、工場の建物と背丈よりも高いくわ畑の横の小道を、通って行きます。ここから、ため池の横を通り過ぎてから、広いのう道と、畑のあいだにある、せまいあぜ道を通って行かなければなりません。途中に、電車の踏み切りがありました。そこをこえると、川のていぼうが見えました。この河岸の上に、メリーが草をたくさん食べられるように、鉄のくいを土の中に深くつきさし、少し長めのロープでつないでおきました。

「お化けなん出るもんか」と、やっちゃんは、つよがりを言って家をでました。ほんとうは、ため池の横を通るのがこわかったのです。

 やっちゃんが、家のすぐうらの県道に出ようとした時でした。前の方から、白いものが、こちらに走ってくるのが見えました。

「メリーだ」。

見つけると、すぐに、子やぎが「メー、メー、メー」と鳴いて知らせました。

メリーがやっちゃんの身体に、かたい頭を、ドスンとぶつけてきました。

「こわかった。どうしてもっと早くむかえにきてくれなかったの。いつもの約束だったでしょ。暗い道を、一人ぼっちで走ってきたのよ。会いたかった」と、メリーが言いました。

やっちゃんは、せまい道にひざをついて、メリーの首をだきかかえました。

メリーのながい首は、ホカホカと熱くなっており、のどの奥のほうで、かれた声がゼーゼーと鳴っていました。暗くなった川岸で、いっしょうけんめいメーメーと鳴いて、やっちゃんを呼んでいたので、声がかれたのでしょう。

「ごめんね、メリー。ぼく、学校でいのこりになっちゃって、むかえにくるのが遅くなったんだ。メリーのこと、ずっと心配していたんだけど…」

メリーは、川岸にしっかりと、さしこんでおいたくいを、いっしょうけんめいに、力いっぱい、引きぬいたのでした。そして、首わにつないだ長いロープと、はしについた鉄のくいを、ひきずりながら一人で走って帰ってきたのでした。

こんなに暗いのに、じぶんの家へかえる道を、ちゃんとおぼえていたのでした。

このことがあってから、やっちゃんは学校のしゅくだいをちゃんとすませて、いのこりにならないようにして、必ずメリーをむかえに行くことにしました。

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この物語はフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。

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Updated February 28, 2002