贈り物

 

一人暮らしの母に旬の味を楽しんでもらおうと、妻の里の鳥取から名産の梨を送ってもらった。

秋分の日の前日に、母から張りのある声で電話があった。

「立派な梨を、どっさり贈ってもらって、有り難う。早速、おすそ分けにサトコとユキコに連絡したら、明日ここへ来るって」

「それじゃ、僕も明日の朝そっちへ行こうネ。午後から名古屋で講演会があり、午前中は何とか都合をつけられるから」

近くの町に住む姉と妹の家族は、それぞれ娘が一人あり亭主と三人暮らしである。

名鉄犬山駅で明治村行きのバスに乗ると、団地が田圃の中に現れる。バス停の近くの商店は、店並みを形成するまでもなく駅前のスーパーに圧されて、その後のバブルの崩壊で明らかな衰退が見られる。それだけに名古屋のベッドタウンとしては寧ろ落ちついた閑静な住宅地である。

 七、八十坪程の宅地に住宅がゆったり建てられており、ほとんどの家はもう建て替えを終えて、庭木も茂りそれぞれの家庭の盛衰が伺われる。春には団地を流れる疎水の横で、桜並木の桜花が咲き乱れる。

母の家は、緑と草花の溢れた庭越しに、この絢爛とした桜の花を借景として春の到来を楽しめる。この前ここに来たのはこんな桜の季節だった。

米寿を迎えた母は毎日読書三昧で、少しも惚けることもなくすこぶる元気だ。久しぶりにやってきた息子にたいする愚痴を、他人への批判に交わし、親戚のだれそれの悪口を言いたてる。私は適当に相づちを打ちながら、母の一人の生活ぶりに思いを巡らした。私も、やがて停年の身だ。

小牧に住む妹が車でやってきた。畑で採れた里芋を、一抱えもあるダンボール箱に入れて重そうに持ってきた。卵大の粒の揃った里芋は、まだ黒々とした土を付けてお り、白く細長く長い枝根が何本も伸びている。茹でて生姜醤油で食べたら美味そうだ。

昼前になり、一宮の姉が亭主と一緒に着いた。例年お彼岸には、朝早くからお萩を作り、母に届ける。弟妹はお裾分けにあづかる。営業でたたき上げの亭主は今は自営業の社長さんで、義母には何時もやさしく気遣ってくれる。

「こんなに皆が揃うことはめずらしいね」、と母はそれそれの贈り物を分けながら、機嫌が良い。私の家へも里芋とお萩を、買い物用の紙袋に入れてくれた。

母にお昼をご馳走しようと相談すると、

「お母さんの知り合いで可愛いおばあちゃんのお寿司屋があるけれど、、、」と姉が言った。母も肯いた。

車で十分ほどの所に別の団地がり、その一角に装いの新しい店がある。店に入ると板前の主人と、客が一人カウンターの止まり木に座っていた。

五人の来客で店はにぎやかになった。奥

さんと、息子に良く似た母親が仕事を手伝っている。喜寿だと言う童顔で丸顔の可愛いおばちゃんが、飛白の和服姿で、自分のお客さまに挨拶をと、お茶をもって来た。

「おひさしぶりです。お元気の様子でなによりで。この前は、病院でお会いしたし、そう言えばスーパーでも、、、」

「まあ、お近くにも店があるでしょうに、わざわざおいでて、、、、」

二人はお互いに元気であることを確認し合い、久々の出会いを喜んでいる。

母は好きな鉄火を、私達は握り鮨をとった。息子達と一緒に食事をするとき、母はお酒を飲むのが楽しみの一つだ。今日はまだ暖かく、母はビールを注文した。おばちゃん達は話に余念がない。

帰りがけに、寿司屋のおばあちゃんが店の前に送りに出て、母にお土産を渡した。店名入りのタオルだった。母はそれを一つずつ子供達に贈った。

道路の向かいにある神社の杜では緑が色濃く聳え立ち、蝉が賑わしく鳴いていた。

 

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Updated February 28, 2002