未年は何か幸先の良い年になりそうだという予感が当たり、一月中旬にシニ海外ボランティアの合格通知が届いた。テュニジア派遣のシニア専門化グループのコーディネーターとしてフランス語による現地関係者との調整業務を行うものだ。
テュニジアに興味を持ち始めたのはそれほど前のことではない。昨年スペインに滞在した時、北アフリカからの不法移民が大きな問題になっていた。毎日のように密入国による検挙事件が発生し、アンダルシアの海岸には上陸に失敗して溺死した人の死体が漂着するという。スペインでは犯罪事件の増加が大きな社会問題になっているが、ジブラルタル海峡を隔て15キロしか離れていないモロッコや、政情の不安定なアルジェリアからの不法移民を防ぐことは難しいようだ。
そんな同じ北アフリカの中でも小国テュニジアは、テロ行為で悪名の高いリビアとイスラム原理主義者のテロリストの発祥地とも言われるアルジェリアに挟まれているが、アラビア半島を含めたイスラム教国の中では、最も治安の好い国だと言う。アラビア語が公用語だが、長い間フランスの保護領であったため、フランス語を話す"フランコフォン"の国である。ヨーロッパからの観光客で賑わい、観光と農業が主な産業である。いつか長期滞在の機会を見つけて、アラビア語を学びながらゆっくり観光をしたいと思っていた。
二年間の滞在となると仕事はともかくとして、余暇には、ギリシャ神話の舞台となったジェルバ島、商業都市として栄えた古代カルタゴ、また到るところで見られローマ時代の遺跡を訪ねよう。サハラ砂漠をドライブして、原住民のベドウィンを訪ねる旅は冒険心を掻き立てる。
数年前にドイツ語のクラスで使ったテキストで、都合で中断したため書棚に積読鎮座しているコパルトブルーの美しいハードカバーの本がある。ドイツ語訳の『Sophies Welt(ソフィーの世界)』で、ノルウェーのヨースタイン・ゴルデルの作品だ。90年代の初めに世界的なベストセラーになり、日本でも話題になった。暇ができたらゆっくり読もうと思い、大枚をはたいてカセットのテープも揃えてあった。
冬の夜長をコタツに足を突っ込んだまま寝そべって、ドイツ語のテープに聞き入る。十四歳の主人公の少女ソフィーが、ファンタジーの哲学の世界を旅する。古代ギリシャの哲学者デモクリトスの地は、カルタゴから程遠からぬエーゲ海の小さな島である。ソクラテスやプラトンを生んだ西洋哲学のメッカ、アテネも近い。ソフィーは哲学者のガイドが投げかける身近な疑問に考えを巡らせ、哲学の歴史を辿りながらヘーゲルやフロイトの近代哲学まで訪ね歩く。うとうとしながら、しなやかにソフィーのファンタジーの世界へと引き込まれて行く。
テュニジアはフランス、ドイツ、イタリアなどからの観光客も多く、暇つぶしに始めた幾つかの言語を活用できる絶好の機会である。これは"暇の効用"であろうと思っている。
Tomingo 2003.1.29
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