日曜日の朝、窓の外で小鳥のぶつかる音がする。カーテンを開けるとまぶしい朝の光が飛び込んでくる。眼下には白亜の高層建築が並ぶチュニジアの街が広がり、その先には小高いボン岬の端が霞んだよう見えるが、棚引いた雲のなかで太陽が赤く輝いている。もう5時半近くに差し掛かっているのだろう。いつもより遅い目覚めを気にして、ツバメたちが私を起こしにきたのだ。
開き窓を両側にいっぱいに開けて、私はパティオの上空に向かって手を差し伸べ、口笛を吹く。大きな黒い翼を広げたツバメがレジデンスのこの三階の窓をめがけて滑空し、3羽のツバメが次々に私の目の前で旋回して視界から遠ざかる。ツバメたちは無言のまま楽しそうに3回この動作を繰り返すと、安心したようにカルタゴの方角へと一日の餌探しに旅立って行った。
このツバメたちとの交流は、私がこの丘の中腹にある眺めの良いレジデンスに住むようになってから間もなく始まった。二十件ほどの家族が住むこの三階建てのレジデンスの中央には、緑のパティオが広がっている。夾竹桃の赤や薄桃色の花が咲き乱れる植え込みの傍らで、夕方には子供たちがサッカーに興じる賑やかな声が響く。五時半ごろ仕事から帰ると、戸口と窓を開け放って部屋の空気を入れ替え、下界に広がるチュニスの街と霞んで見える地中海を一望する。左の遥か彼方にはカルタゴの港が広がっているのだが、ここからは見えない。一日の勤めのあとでの晴れ晴れとした開放感を感じるひと時だ。小鳥たちが忙しく空中を滑空し、夜の帳の下りる前に動き出す昆虫の餌採りに忙しい。
夕方のそんな風景をぼんやりと眺めていると、突然、一羽のツバメが玄関の前に現れると、恐れることもなく目の前で急旋回して、建物の角で遮られた視界から消えていった。私は口笛で、プイプイと鳥の鳴きまねを繰り返してやった。間もなく、3羽のツバメが、同じような動作を繰り返してやってきた。新入りの居住者への挨拶なのだろうか。人懐っこいアフリカの小鳥は、同じ動物仲間として大らかなこの地の人々との交流を楽しんでいるのだろう。見慣れない東洋人に示す好奇心は、このチュニジアの人々と同じように、「アワランワ、サハラン!(よくいらっしゃいました)」と言って迎えてくれているようだ。
そんなある夕方、ツバメが窓の隙間から家には入り込み、透明な窓ガラスめがけて飛び出そうとしたが、ガラスに突き当たり床に落ちたようだった。羽ばたきに気がついて近寄ってみると、大理石の廊下に、25センチもある大きな黒い羽を伸ばして静かにしていた。私が近づいてもあわてる様子もなく、静かに私の顔を眺めている。人に意地悪をされたことのない信じきった様子だった。両手で静かに体を持ち上げてやったが、まったく抵抗する様子はない。玄関のベランダから大空に向かって抛り投げるように放ってやった。ツバメは難なく真っ直ぐに、空へ向かって飛んだ。間もなく、旋廻して私のところへ戻ってくると、「ありがとう」というようにすぐ目の前で急旋回して、大空へ舞って行った。
そんなことが二度あったが、いたずら好きな子供とおなじだと思い、特に気にもとめていなかったが、その後は夕方には3羽のツバメがかわるがわる玄関口にやってきて、私のの口笛に応えて、見事な滑空をみせてくれる。
週末の土、日曜日には、時としてゆっくりと朝寝をしているときがある。そんなときにはツバメたちが、私の遅い目覚めを心配して、寝室の窓の外枠に体当たりしてはバタバタと羽音を聞かせる。「ああ、朝だったね」と私は、ツバメたちに答えるように、窓から顔をのぞかせる。3羽のツバメたちが、次々に私の面前に現れては「目が覚めたかい?」と、嬉しそうに得意の急旋回をして、私を驚かせるのだ。
爽快な朝のチュニスの風景を眺めると、気持ちが晴れ晴れとする。
「今日は、君たちのことをエッセイに書くからね」と私はツバメたちに呟いた。
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