宮指路岳/仙ガ岳

 

九月最後の日曜日、久々の二日連続の快晴である。最近の雨で緩んだ山道も安定していることだろうと思い、宮指路岳に登ることにした。

鈴鹿山脈の南には、椿大神社のバス停を拠点にして入道ガ岳、宮指路岳、仙ガ岳がある。中でも渓谷や沢の美しい小岐須渓谷にある切り立った岸壁に挟まれた屏風岩は、夏の家族連れや若者達に人気がある。

前に一度見たこの壮大な屏風岩が忘れられない。こんどこそ迫力のある写真を撮りたいと思うが、オートフォーカスのカメラでは自然の明暗が十分に表現できない。そこで昔使っていた古いペンタックスを取り出して、フイルムもASA100を選んだ。

近鉄名古屋駅発、7時31分の松坂行き急行に乗った。四日市駅で下車すると、8時10分発の椿大神社行きの三重交通のバスに丁度間に合った。登山姿の中年の男性三人と女性一人が遅れているバスをじれったそうに待っていた。客の少ないバスが町並みを過ぎると田園風景が広がる。田畑の畦や土手道に鮮紅色の彼岸花の花叢が所々群生し、一面緑の田畑に鮮やかな赤い斑模様を織り成している。山麓に近づくに従って、一面に茶畑が広がり、茶摘みをする機械の音が朝の畑に響き渡っている。

9時前、椿大神社の手前の山本停留所で下車、運賃は730円。同乗の登山者は、入道ガ岳に登山のためか、そのまま終点まで向った。秋の冷たい空気が半袖の肌に冷たく心地よい。椿大神社建立二千年の幟が左右の沿道に等間隔に立っている林道のバス路を過ぎると、畑と農家が道の両側に続く。

前方の人家越しに、砕石のため無残に削られた半斜面の山肌が露出して、迫ってくる。小岐須の集落を右折し、渓流の川沿いに舗装された路を山の方行へ向う。対岸の削ぎ取られた山の中腹には砕石工場のコンベアーが数本立体交差して、設置されているのが見える。美しい山と渓谷の風景とは似つかない、荒々しい自然破壊の修羅場に見える

やがて石灰岩の砕粉工場の横を通りすぎると、杉の林道となる。山の斜面から流れてきた湧き水が舗装された林道に溢れて流れている。

9時40分、小岐須キャンプ場の駐車場と山小屋風の建物を過ぎると、すぐ横に入道ガ岳登山道の標識がある。更に暫く歩くと、左側に屏風岩と小岐須キャンプ場の標識があり、道路を左手に渓谷へ下りると、すぐに屏風岩の吊り橋に出る。

早朝の渓谷には、他に人影は見えない。

激しい渓流で抉られた岸壁が左右に切り立ち、上流から滝の水が大きな音を立てて激しく流れている。吊り橋を下り、適当な岩の足場を見つけて写真を撮る。

少し上流は、右岸壁がみごとな自然の彫刻による葛篭を刻んで屹立している。その下では谷の水が大きな岩をぬって、ごうごうと激しい音をたてながら飛沫を上げて流れている。

吊り橋の上に続くキャンプ場への路を辿ると、屏風岩のすぐ下に平たく安定した岩の展望台にでる。上流は、右岸壁がみごとな自然の彫刻による葛篭を刻んで屹立している。その下では谷の水が大きな岩をぬって、轟々と激しい音をたてながら飛沫を上げて渦巻き流れている。ここからはさっきの下流の切り立った岸壁にかかる吊り橋と渓流を写真に収める。

この上にあるキャンプ場は、夏には若者や子供連れの家族にとって絶好の水遊び場所になる。

登山道に戻り大石橋を渡り、宮指路岳登山道の標識を右手の登山道に入る。この道は狭い急な上りとなり、木々はまだ紅葉していないが、登山道には枯れた落葉が積もっている。十分ほど歩くと、カワラコバ方面と東海展望経由の宮指路岳への方向に別れる。後からやってきた中年の夫婦が、展望経由の方面を確かめて足早に去っていった。

カワラコバ経由の道では山の斜面を巻き込むように辿ると、右手に渓流が流れ、更にしばらく歩くと段状の滝が見えてくる。道の端では、クガイソウだろうか、円錐形の薄いピンク色の花びらを残して群生している。やがでまた別の階段状の滝が杉木立ちの間にみえる。この山道は沢の水が豊富で、小岐須峠のすぐ下まで沢が広がっている。

12時、小岐須峠に到着。ここより左右に別れる稜線を左に進み、12時30分、宮指路岳頂上が見渡せる景色の良い岩場に出る。中高年の数人の男女が寛いで昼食を楽しんでいる。ここからすぐ南の方角に仙ガ岳が見渡せる。

昼を少し過ぎた所で、まだ時間は十分ある。折角だから仙ガ岳へ足を伸ばそうかと思った。ちょうど、前方からやってきた中年のパーティに会い、年長の男性に仙ガ岳へ足を伸ばした場合の下山道の状況を尋ねる。

仙ガ岳までは一時間程度、下山に2時間程度と見込まれ、時間的に十分こなせそうだ。

宮指路岳へは十分ほどで到着する。山頂には宮指路岳山頂946米の標識がある。木々と笹で遮られ遠望はきかない。更に眺めの良い三体仏岩の東海展望に出る。ここからはなだらかな宮指路岳の山頂が迫って見え、北の方には尖った鎌ガ岳と、山頂の展望台が白く見える御在所岳がはっきり見渡せる。仙ガ岳の双耳峰が南の方角にすぐ近く感じられた。風が強く吹きつけ、冷たい。

岩陰で風を避けて、名鉄駅で買った「木の葉鮨」の弁当を食べる。展望を離れ、宮指路岳山頂に戻り、仙ガ岳方向の標識に従って笹道の薮漕きをしながら進む。

ガレ道の稜線は狭く、ぼろぼろの岩の隙間を足場に気を付けながら向いの嶺に午後1時たどり着く。足を滑らせるとそのまま鑢のような岩肌に身体を擦りながら谷へ落ちるだろう。

嶺を8個ほど越えて、屏風岩から一時間半ほどで仙ガ岳頂上に到着。鈴鹿山系の調査をしているという名古屋の男女の青年二人が、山の状況をノートに書き入れていた。

地図を確かめて仙鶏尾根を辿り、白谷方向の標識に従って谷道を下る。

14時半、石水渓谷のバス停に到着。JR亀山駅行きのバスは十分前に出発して、次のバスまで一時間半ある。

バス停には、団体の貸し切りバスが、下山の客を待っていた。ちらほらと、下山の登山者が集まってくるが、発車まではまだ時間が有りそうだ。東海市の登山パーティだとか。

JR亀山駅駅までは徒歩で二時間ほどだが、バスを待っている間に沿線を歩くことにした。バスが石水渓谷のバス停を折り返して、追い越す頃に適当なバス停で拾えばいいと思い、1時40分、幅の広い舗装道を駅に向う。

舗装された車道の歩きは、味気なく、登山靴の足には応える。三十分ほど単純な歩道を無心に歩いていると、後ろでバスの止まる音がした。

「途中まで乗って行きませんか」、とさっきの貸し切りバスの中から、山友会の会長さんが声をかけてくれた。バス停で声を掛けた登山者が気を遣って会長に話してくれたのだ。

…やれやれた助かった、あと一時間ほどの味気ない車道の無様な一人歩きも、電車の乗り継ぎもしなくて済む、と感謝の言葉を述べて、空いている座席に坐り一行の仲間に入れてもらった。一ヶ月に一回、近辺の山にバスで出かけているとか。

黄昏が辺りを覆う頃、名鉄の東海市近くの電停に着いた。

渓谷の美しい芸術的な写真を期待したが、現像して戻ってきた写真は露出不足の失敗作だった。

1997/9

 

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Updated February 28, 2002